※キースがみんなを名前呼びしてます




調子はどうだい、と話しかけたキースに、唐突に「お前はいいよなぁ」と虎徹がいうので、何がだい?とキースは首を傾げた。虎徹はトレーニングに飽きたようで台の上でごろりと寝転がっている。キースの記憶が確かならばまだ始めてから10分も経っていないはずだ。「今日はもうしないのか」「休憩だよ、休憩」ひらひらと手を振る虎徹の横に腰を下ろして「で、何がいいんだ?」と尋ねる。ああ、と思い出したように声を上げた虎徹は、お前の能力、と言った。
「能力?」
「空飛べるし、風操れるし、最強じゃねーか」
「そうでもないさ」
「でも空飛べるのはすげーよ」
まさにヒーローって感じ、と言う虎徹にそうかなとキースが返す。「そうだろ。漫画やアニメのヒーローはみんな空飛べるじゃねーか」「でもスパイダーマンは飛べないよ」「あれも空飛んでるようなもんだろ」シュッシュ、と口ずさんで糸を出す真似をしながら、いいよなぁと虎徹は繰り返す。「俺もお前みたいに空飛べたら、もっとヒーローっぽくなれるのかなぁ」。小さく呟かれた言葉に黙っていると、虎徹がさらに話を続ける。
「ほら、俺の能力ってさ、5分しかもたねぇじゃん。100倍ってもせいぜいジャンプ力があがるだけで空が飛べるわけでもないし、鉄骨曲げたりはできるけど直せねぇし、5分経ったら1時間はただの人だしよ。でも俺わりと自分の能力気に入ってるからそれは別にいいし、あと変な意味じゃねえんだけどさ、お前の能力が羨ましいなぁってたまに思う」
まぁどうせ『正義の壊し屋』とか言われんのは間違いないだろうけどな。笑う虎徹に、それまで黙って話を聞いていたキースが「私は、」と口を開いた。
「私は、君のハンドレッドパワーは素晴らしい能力だと思うよ」
そんなことを言われるとは思っていなかったのか、虎徹はぽかんとした表情でキースを見上げている。間抜けな顔に小さく笑いながら、「この前の爆発現場でも私は作業員を助けることができたけど、私自身は作業員を押しつぶしている鉄骨を風で除けることができなかった。アントニオとバーナビー君、そして虎徹。君が、君たちがいてくれたからこその人命救助だった。」私は君の能力は、ヒーローにふさわしいものだと心から思っているよ、と言った。照れもせず真面目にそんなことを言ってくるキースを恥ずかしさから茶化そうとした虎徹だったが、自分を見つめてくる目をみて、ひとこと「ありがとな」とだけ返した。微笑む虎徹にキースが口を開きかけたのとほぼ同時に、上から声が降ってくる。

「またさぼってるんですか、おじさん」

二人が顔を上げると、いつの間にやってきたのかタオルを肩にかけたバーナビーが見下すようにこちらを見ていた。ゲッとあからさまに顔を顰めた虎徹をみてバーナビーも眉を寄せる。「休憩だよ、きゅーけー」「まだ来てから20分も経ってないでしょう。貴方何しに此処へ来てるんです?」「うるせーなー、やりゃあいんだろもー」まったくバニーちゃんは、とブツブツ言いながら起き上がった虎徹は、今度飲みにでも行こうやとキースの肩を叩くと、先を歩いているバーナビーのところへいってしまった。いつものように言い争いながら遠くなっていく二人を眺めてキースが呟く。
「……私はバーナビー君の能力が羨ましいな」
君と同じ能力だったら、もしかしたらコンビを組めていたかもしれないのに。言いかけて、結局言えなかったが、言ったところでどうなるものでもないだろうと思い直してキースもトレーニングに戻った。






(20110508)