あちゃちゅむ


ベッドの上で虎徹の服を脱がせていくバーナビーの手つきがやけに丁寧な、恐る恐るといった様子なので、初めの内はそれらしくドキドキしていた虎徹も5番目のシャツのボタンに手がかかろうという頃にはすっかり飽きてしまった。爪の先まで整えられたきれいな指がプツン、とボタンを穴から外すのを後ろ手をついてじいと眺めていた虎徹は、きれいな指が最後のボタンに伸びる前に自分でボタンを取っ払った。「ああっ!」嘆きのような声に続けて、なにするんですか!と憤る真正面の顔に「おせーよ」と言った。

「お前さぁおせーよ脱がせんのが。ボタン外すのに何分かけてんの」
「何事も初めが肝心でしょうよ。ちょっとだけ開いたシャツの隙間から徐々に肌が見えてくるのがいいっていうのにまったくあなたときたら!」

ロマンがないですよロマンが! 声高に叫ぶバーナビーに、何がロマンじゃあほたれと言い返す。

「俺のドキドキはどうすんだよ。俺さっきまでめっちゃドキドキしてたんだぞ」
「ずっとドキドキしてればいいじゃないですか。これからもっとドキドキすることするんですよ?」

服を脱がせている間ずっとドキドキしていればいいじゃないですかという主張は最もで、緊張感を持って行為に望むのは好きな虎徹もかねがねその主張には同意だ。しかし遅い。とにかく遅い。「あんまり遅いと一回り年下の後輩にやられそうになってる中年ってどうよ?とか考えちゃうだろ。さもしくなっちゃうだろうが」「全然さもしくないですよ。大人しく僕の下で啼いていればいい」「こらっ!どこで覚えてきたのそんな言葉!」ハーレクイーンのような台詞を吐いたバーナビーはブルーローズさんから借りた本ですと言うやいなや、今度は虎徹のベルトに手を掛けて慌しく脱がせていく。その勢いたるやまるでレイプだ。

「ちょおこらこらこらこら、まてまて、おい、待てってば!乱暴すんなこら!」
「遅いって文句言ったのは誰ですか」
「極端すぎるよ!アホ!」
「あっ虎徹さんパンツに穴開いてますよ」
「やめろおい嗅ぐな嗅ぐな」

脱ぎたてのパンツを鼻に寄せるバーナビーから慌てて取り上げると「だって穴開いてるから」とわけのわからない言葉が返ってきたので、虎徹はとりあえずパンツを遠くに放り投げた。「まったくお前」は、と言いかけて、振り返った顔を両手で挟むように唇を吸われる。体重をかけられるまま逆らわずに倒れこむと背中でスプリングが軋み、いやらしい音が響いた。虎徹はこの、ベッドが奏でる卑猥な音楽が嫌いではない。『そういうことをしている』というのが明確になって、最中のぼんやりしているときにわずかな羞恥を感じるのがなんとも良いではないか。ちゅ、ちゅ、と顔中に降りかかるキスを受けながら、性急に体を這い回る手の平にクツクツ笑うと不機嫌な顔をしたバーナビーに鼻を噛まれた。「あたっ」「なに笑ってるんですか」「いやぁ〜やっぱね?アレだよなあって」「アレじゃわかりませんよ」ちゃんと言葉にしてください、と鼻から頬をすべった唇が耳元で囁くので、くすぐったくて声を上げて笑った。今度は耳たぶを噛まれる。「ヒヒ、不機嫌ちゃんめ」「笑うのが悪い」その間も、きれいだが男らしい手の平は虎徹の体を撫でさすり、股の間にたどり着いた片方の手は緩く固まっていたそれを弄り始めた。焦らすのとは無縁の動きに色の付いた息を吐きながら、やっぱ忙しいくらいがちょうどいいわと虎徹が言い、意味を捉えあぐねたバーナビーはまだふざける余裕があるのかと思い違えて手の動きを早める。バーナビーに自分の考えがうまく伝わっていないことは分かっていたが、結果オーライならばいいやと虎徹は黙って気持ちよくなることにした。気持ちよければなんでもいいのだ。






(20111218)
ハーレクインの貸し借りしてる兎薔薇かわいいと思うの