猫とビニール









沢村が何かを呟いた気がして御幸は顔を上げた。それまでずっと首やら臍やらその下やらを舐めまくっていたものだから舌をしまい忘れて、それを見た沢村がふふ、と笑ってまた呟いた。「ねこみたい」ふふふ、みゆきセンパイ、ねこだ、と何が可笑しいのかわからないがツボに入ったようで、ずっと笑っている。ベロ出てるよと言われた御幸が半開きの口を閉じても吐息の様な笑い声は絶えない。全裸でベッドに寝転がっている人間ふたりがやることなんてひとつしかないというのに、沢村は今さっきまでいじらしく喘いでいた唇から面白可笑しい笑い声ばかり吐く。ねこ、ねこだ、と十五回ほど繰り返されたところで、大人しく見下ろしていた御幸が「猫ってなんだよ」と口を開いた。
「ねこはねこっすよ」
「なんで急に猫が出てくんだよ。どっちかっつーとお前の方が猫じゃん」
猫目になるし、今もだし、と無理やり話を終わらせようと喉仏に噛みつくとまた笑う。無視して浮き出た骨を舐めあげると、知ってますか、と沢村が言った。
「ねこってビニール袋とかめちゃくちゃ噛むんすよ」
「へぇ」
「友達んちで猫飼ってたんすけど、もうすごくて、買い物から帰ってきたら飛んできてビニール袋噛むんですって」
「ふぅん」
「遊びに行ったとき何回か見たことあるんだけど、すげえ噛んでんの。夢中で」
「そうなんだ」鎖骨の窪みに吸い付くと喉がひくりと震えるのが楽しくて、その辺りに唇をうろつかせていると後頭部の髪を捕まれ抗議を受けた。
「なにが面白いのかわかんねーけど、めっちゃ噛んだり舐めたりするんすよ」
「へー」
「別に…っあ、じとか、しないと思うんすけど……」
意地悪く乳首に噛みついて、見せつけるように舐めあげてから御幸は腹筋に歯を立てた。少しずつではあるが毎日のトレーニングの成果が如実に表れる筋肉が楽しくてがじがじと甘噛みしていると、くすぐったいとばかりに沢村が身を捩る。
「ふへへへへ」
「こーら、真面目にしなさい」
「真面目にってなんですかぁー」
「集中しろってこと」
「センパイこそ真面目にしてくださーい、ふひひ」
最後に一押しと臍の穴に舌を入れて、御幸はその下に顔を寄せた。猫の話などしているから少し萎えたかと思っていたがそんなことはなく、元気なものだ。噛んで舐めてこすってと身体以上に構っていると、ふざけて笑っていた沢村の声が段々と元に戻ってきた。こうなるとまた意地悪をしたくなるのが御幸一也と言う男で、滲み出る汁をすすりながら「それで?」と尋ねた。
「へ、あ? なにが……」
「猫がなに? なんで急に猫の話したの」
下半身の刺激にぼんやりしていた沢村は(今食い付くのかよ)と意地の悪さに腹を立てたが、ほら早く言えって、猫がなんなの、と自身を人質のごとく扱われて息も絶え絶えに答えた。
「だっ、から、……ねこが、」
「うん」
「舐めたり、噛んだり……するの、ぅ…おいちょっと手はなせよ!」
「やーだよ。それでそれで? 噛んだりするから?」
「す…するのが、なんか……さっきのセンパイみたいだなっ、てぇ…思ったの! それだけ!!」
「なんでキレてんだよ」
「うるせぇ!」
中途半端に撫でたりいじったりを繰り返された沢村がとうとう「やるならちゃんとやれよ!」と怒鳴り出す。御幸は声を上げて笑い、機嫌を取るようにキスをした。