『あと五分で授業が始まりますよ』というメールの着信で目を覚ましたナランチャは、しばらくぼんやりと画面をみつめた後で顔を枕に押し付けたままカチカチと指を動かした。「きょおは、やーすーむ、っと」そりゃ、と携帯の先を空に向けてボタンを押す。たぶん返事はこない。その代わり、次に会った時ちまちまとした小言が待っている筈だ。「寝坊しちゃったからしょーがないよねー」誰に言うでもなくひとりごちたナランチャは壁にかけてある時計を見上げる。もう昼は過ぎていて、あと二分で午後の授業が始まる時間だった。腹は減っていたが食事をするのが面倒だと思ったので二度寝をしようとタオルケットを抱え込むとタイミングよくチャイムが鳴った。いくら無視してもやむ気配がない。ナランチャはけして辛抱強い方ではないが、来客を迎えるならばチャイムを我慢して眠っていた方がいいと思ったので、今回は黙って目を瞑っていた。思ったとおりそのうちチャイムがとまる。さっさと諦めろっつーの、とナランチャが内心で悪態をついているとガチャガチャと鍵を回す音がして誰か入ってきた。段々近づいた足音はとうとうナランチャの部屋にやってきて、抱えていたタオルケットを思い切り剥がした。「やっぱり」予想通りだとでも言いたげに呟いた男はベッドの上で丸まったナランチャを眺めている。ナランチャは顔を顰めて「ジョルノ…」と呟いた。
「ピッキングすんなよな。つーかなんでここにいんの?授業は?」
「君を呼びに来たんです。もう前期終わるのに一回も出てないじゃないですか」
単位取れませんよ、と言いながら手近な椅子に座ったジョルノも、ナランチャと同じ授業を取っている筈で、つまり、「お前もサボり?」枕に顎を乗せて楽しそうに言うナランチャに、ジョルノは「まぁ端的に言うとそうです」と言った。
「なんで優等生ごっこなんてしてんの」
「アバッキオが呼んでこいってうるさいんですよ。どうせ君は呼んでもこないだろうし、それでまたうるさく言われるのはごめんですからサボる事にしました」
「お前も大変だなぁ」
「君のせいですからね?」
「でもどうせ、サボった理由は俺にするつもりなんだろ?」
ナランチャが口角を上げると、ジョルノは人好きのいい笑顔を浮かべて「もちろん」と口を開いた。「君につかまって、時間までに帰ってこれなかったって言います」「ひっでぇ」ケラケラと笑ったナランチャは「なんか飲む?」とベッドから立ち上がった。
「コーラあるよ」
「じゃあそれで」
「あいよー。つか、なんでわざわざメール寄越したの?」
冷蔵庫から取り出したペットボトルのコーラを投げながらナランチャが尋ねると、その方がいかにもって感じするでしょう、と返される。
「優等生って感じ?」
「そうそう」
何事も気持ちからです、と言ってジョルノはコーラの蓋を開けた。





(20100703)