勝己は初売りに熱心なタイプではないが、餅が切れたので買ってこいとお使いを頼まれたついでに街をうろつき、初売りだセールだと騒がしくしている店を冷やかしながらふと気が向いて福袋を買った。知らないブランドだが、店頭に並んでいる服は趣味から大きく外れてはいなかったので一着くらいは気にいる物が入っているだろうという感じだ。
さほど期待もせず家路についた勝己は、頼まれていた餅を母に渡して、部屋で中身を確認して目を剥いた。

「……ンだァ? これ」

見間違いか、と両手で広げたブツは間違い様もなく女性用下着である。前後に逆三角の生地がある他はすべて紐で出来ているという、およそ下着の意味を成していないデザインだ。何なんだこれは…と袋をひっくり返すと、いくつかのちゃんとした服に混ざって紙が落ちてきた。
ハガキ大のそれには『この袋を手にしたあなたはラッキーだ。セクシーな下着を彼女に着せよう』というような文面が書かれている。
見事福袋にて大吉を引き当てた勝己は、紙と下着を見比べた後、携帯を取り出した。




雑煮をつまみつつ年始特番を眺めていた出久は、ピロリロと鳴った携帯を見て、かっちゃんち行ってくるねとコタツから抜け出た。二分で来いなどと無茶苦茶なことが書かれている画面を見ながら部屋着を脱ぎ、適当な服に着替えて向かった先で、おじさんおばさんに新年の挨拶をしてから二階に向かう。
ベッドには勝己が寝転んでいる。部屋着ではなかったので、もしかして初詣の誘いかなと少しワクワクしていた出久の期待を歯牙にもかけず、身体を起こした勝己は横柄に口を開いた。

「これ穿け」
「え?」

なに? と近づくと、指に引っ掻けてブンブン振り回していたなにかをそのまま投げつけられる。見事顔に命中したそれをようよう眺めた出久はギャアと声を上げた。

「こ、こここれ、えっ!? どうしたのかっちゃん!? 買ったの!?」
「買うかボケ殺すぞ。入ってたんだよ」

掲げた袋に『福袋』の文字を見つけた出久は(いや買ったんじゃん……)と思ったが、次いで見せられた紙に目を通すと納得した。

「……え? いやいや…え、これ穿くの? 僕が?」
「他に誰が穿くんだよ」
「いやいやいや」

どう考えても自分が穿く理由がないのだが、勝己は横柄な顔のまま「はよ脱げや」と言う。素直に従う出久でもなく、両手で持った紐パンと勝己の顔を見比べていると舌打ちをして勝己がベッドから降りてきた。

「新年早々トロくせぇなテメーは。おら脱げ」
「わあぁあぁわかった! わかったよ自分で脱ぐから!」

ダウンジャケットから脱がしにかかる勝己を必死で押し返した出久は、持ってて、と一旦下着を預けてジャケットに手をかけた。
下に着てきたのはもう少しで部屋着に移動する予定のトレーナだ。どうせ上着を脱ぐこともないだろうと思っていたので盛大によれている。「う、上はいいよね……?」好きにしろ、と目で返されたので、続いてズボンに手をかけた。こちらは比較的最近買ったものだ。高校入学前に履いていたズボンは足の筋肉がついたため軒並み入らなくなってしまった。ベルトを外し、ボタンも外してチャックを下ろし、ズボンをさげる。足元に絡まったそれから片足ずつ引き抜いて、最後に残ったボクサーパンツに手をかける。

「…………ほんとに穿かないとダメ?」

駄目押しの問いかけに、勝己は首を傾けた。

「穿かせてほしいってんなら手伝ってやらんこともねえぞ」
「………………」
「なぁ?」
「……自分で穿きます……」

大きく息を吐いた出久は、エイヤッと下着をおろした。暖房の利いた室内といえど半裸は些か肌寒く、つま先からぶるりと震える。
もうここまできたらとっとと穿いてしまおう、というところで、服を脱ぐからと勝己に預けていたことを思い出した。

「かっちゃん、それ取って」
「どれ」
「それだよ、その……それだよ……」
「だからどれだよ」

わっかんねーなぁ、とニタニタ笑う勝己は人差し指でクルクルと紐パンを回している。「その……パンツ、貸して」顔を真っ赤にしながらやっとの思いで口に出したというのに、あろうことか「てめぇで取りにこい」などとのたまうので、出久はとうとう怒った。
毅然とした足取りでベッドに近づき、膝を立ててこちらを見ている勝己から紐パンを奪うとその勢いのまま前屈みになり足を通す。どちらが前か分からないが、どちらにしても薄い逆三角の布しかないので対して変わりないだろう。

「ほら! 穿いたよ!」これで満足かとトレーナーの裾を持ち上げて見せつけた出久は、股間の目の前に勝己の顔があること、その顔に先程まで浮かんでいた冗談が一辺もないことに気付
き、そして今自分がしている格好を理解して目の前が真っ白になった。
たくし上げていた裾をトレーナーが千切れるのではと思うほど引き伸ばす。慌ただしく出ては隠れた下半身を眺めた勝己は、両手を持ち上げてそれぞれ出久の足を掴んだ。膝裏を擽り、ゆっくりと撫でるように手を登らせる。

「ちょあ、か、かっ……!」
「これ前後あってんのか」

裾の間から侵入した両手は、尻を揉み、紐を引っ張り、布に収まりきらなかった臍付近の下生えを遊ぶように引っ張ってから核心に触れた。薄い布の上から何度か揉んでやるとすぐに湿った感触が伝わってくる。元々面積が足りなかったので、大きさを増し、立ち上がってしまうともはや隠すも何もなく横から飛び出してすっかりトレーナーを持ち上げていた。よれた服にじわじわと滲む一点を笑うと、出久は情けない声を出した。

「染みてんじゃねーか」
「うぅ……」
「手、離せ」

裾を引き伸ばしたままなので、布地を押し上げる形が増々くっきり見えるということを出久も分かっているのだ。それでも肘を曲げられず、頑なに隠そうとし続ける出久に勝己は鼻で笑った。軽薄な顔に、見下ろしていた出久は嫌な予感がした。
「これ」と言いながら勝己が出っ張ったトレーナーに唇をつける。「舐めてやろうか」生地越しに伝わる微かな振動に声を漏らすと、視線は出久を見上げたまま勝己は舌を出した。見せつけるように染みをつつき、ぢゅうと音を立てて吸い付いてくる。わざとらしいそれは音の割に刺激がないのがもどかしかった。

「どうすんだ」
「う……うぅー……」
「もう帰るか?」
「えっ」

思わず漏れた声があまりに物欲しそうだったので出久は恥ずかしくなった。対する勝己は楽しそうである。機嫌を良くしたのか、トレーナーの内側から軽く扱き始めた。

「だぁッかっちゃ、待って、それ…ッ……ちょっと…ぉ……」
「ちょっと?」
「だっ…めだ……から…ッ…ひァ!」
「早く決めろや」

だからトロいんだよお前は、と話す勝己の左手は尻に回っている。紐を尻に食いこませて持ち上げられたので、出久の踵が少し浮いた。猫の尻尾を付け根から持ち上げるように小刻みに動かす。

「ほらっどうすんだって」
「あっあっま、待って、出すッ出すからっ!」

前のめりになった体を支えるように両手を勝己の肩についた出久は、促す視線を睨み返しながら体勢を整え、再び裾を掴むとゆっくりと持ち上げた。反り勃つペニスから滲む先走りが服の裏地と糸を繋ぐ様がどうしようもなく卑猥だった。
褒めるように出久の太腿をさすった勝己は何も言わない。面白そうに見上げてくるばかりの幼馴染を見下ろしながら、ひとつ鼻を啜った出久は「かっちゃん、舐めて…」と涙声で言った。







学校が始まり休みボケもなくなってきたある日の夕方、勝己の家に出久がやってきた。何の用だと尋ねると、部屋で話すよと家にあがろうとしてくるので、ろくな用件ではなさそうだとアタリをつけた勝己はここで話せと言った。

「えーっと、ここじゃちょっと」
「ここで言えねーなら帰れ。じゃあな」
「あああ待って待って」

耳を貸してと手招きしてくるので渋々近づいてやると、ひそひそと用件を囁かれる。目を見開いた勝己に、恥ずかしそうに、しかし出て行くつもりが微塵も感じられない顔で出久がはにかんだ。



「とんだスケベ野郎だな」

ベッドの上、後ろ手をついて座る勝己は、目の前でワイシャツとパンツだけになった出久を眺めて感慨深く呟いた。床には上着とスラックス、それからボクサーパンツが脱ぎ捨てられている。

「お前絶対これ穿いてたの今日だけじゃねーだろ」
「うん」
「即答すんなキメェ」

新年でお遊びに使った下着はそのまま出久に穿かせて帰ったのだが、ほぼ紐なので上からボクサーパンツを穿いてもまったく気付かないのをいいことに恒常的に使用していたらしい。毎日かという質問にはさすがに違うと答えたが、恐ろしいので使用回数について詳しく訊くのはやめた。

「で? わざわざそれを見せに来たんか」
「ううん。今日はそれだけじゃなくて……」
「もじもじすんな」

キメェ、と顔を歪める勝己を無視してベッド脇に置いた鞄を漁りはじめる。ベッドに膝をついたまま漁っているので否応なしに浮いた尻が目の前で揺れて、手持ち無沙汰な勝己は平手を打った。潰れた蛙の様な声をあげながら、出久は慌てて体を起こした。
手の中にある、ガムテープでこれでもかと厳重に封がされている黒いビニール袋は見るからに怪しい。胡乱気な目を向ける勝己の前で躊躇なく破かれた袋の中身を見て、やはりろくな用件ではなかったと勝己はうんざりした。

「あのね、これかっ「断る」 まだ何も言ってないでしょ!?」

最後まで聞いてよと怒る出久に、聞かなくても分かるわと勝己が怒鳴り返した。紫と黒の、紐にレースとフリルがついたやけにキラキラしている下着はどう見ても女物であるし、派手さでいえば出久が穿いているものに勝っている。よもや自分で買ったのではあるまいという質問に「通販で……」と言い始めたのでその先は止めた。
口を塞がれてもがもが呻いている出久から下着を奪い取る。人差し指と親指で摘まみ掲げたそれは、下着というより派手な紐と言った方が正しいくらい紐であった。出久を見ると、何やら期待した眼差しで勝己を見ている。

「……俺に、これを、穿けと」

もが、と小さく頷く。手を離すと、頬を染めた出久がはしゃぎながら口を開いた。

「かっちゃんも、穿いて? ね?」

『も』ってなんだよ。
今すぐド派手な紐を消し炭にして問い詰めてもよかったが、出久を上から下まで眺めた勝己は口元を引き上げて笑った。まだ手も触れていないというのに勃起している出久がかわいかったので、遊んでやってもいいかなと思ったのだ。





既に部屋着だった勝己は、パーカーはそのままにスウェットだけ脱いだ。ベッドに座ったまま尻を持ち上げて脱ぎ、放り投げてから下穿きに手をかける。尻から抜き取り、膝のあたりまで持ってきたところで勝己は手を止めた。先程投げたスウェットに出久が顔を埋めていた。

「かっちゃんの匂いがするー」
「お前……」

気持ち悪いな……と呟いた勝己は、念には念を押して脱いだパンツを自分の後ろに置いた。スウェットを抱きしめて満足そうにしている出久に蹴りを入れてからド派手な下着に手を付ける。いかんせん9割以上が紐なので、穿くというよりは足を通す感じだ。勝己は小学生の頃にやったフラフープを足からくぐる遊びを思い出していた。
何度か尻を持ち上げながら腰骨に食い込んだ紐を整える。前後もクソもない下着は、当然の事性器を隠す布もなく、行き場を失った紐が睾丸の横に収まっているのがシュールだ。

「おら、穿いたぞ」

崩れた体育座りのような格好で呼ぶと、未だスェットを抱いていた出久は丁寧に畳んで床に置いてから前のめりに近づいてきた。微塵も隠す様子のない場所をまじまじと眺めてから「触っていい?」と聞いてくる。

「駄目っつったら?」
「うーん……ごめんね」

と言って出久は手を伸ばした。見事なまでに口だけの謝罪である。呆れて言葉もない勝己を余所に、柔らかい竿をゆっくりと持ち上げて扱きながら徐々に距離を詰めてきた出久は、勝己が勃ち上がる頃には自身のそれとぴったりくっつけるほど傍に寄っていた。

「ちけぇ」
「うん、ごめん」
「思ってねぇだろ」
「えへへ」

ごめんね、と言いながら勝己の唇を舐める。少し乾いている表面を潤すように舐めていると、不意に開いた中から舌が飛び出し、咥内に引き込まれた。後ろ手に体重をかけている勝己が自分が寄りやすいように足を開いてくれていることが嬉しい出久は、より近づこうと前のめりになる。二人の身体が隙間なく触れ合う距離になる頃には、互いのペニスはそれぞれの腹に挟まれていた。お互い上半身は服を着たままなので、偶に擦れるワイシャツとパーカーが堪らない刺激を生むのだった。
しばらくの間そうしていた二人だが、いい加減腕が疲れた勝己が出久の後ろ髪を引っ張った。

「重い」
「んぇ…」

体を起こした出久は、勝己が腕をプラプラ馴染ませている間ぼんやりしていたが、ふと思い立ち勝己を押し倒した。なにすんだテメェと頭をはたかれながらも両足を抱え込んで「かっちゃん……」と甘えた声を出す。

「あのさ、はさ「死ね」 まだ何も言ってないじゃん!」

最後まで聞いてよと怒る出久に、聞かなくても分かるわと勝己が怒鳴り返した。

「だって最後にやったのかっちゃんだから、次は僕の番じゃないか」
「誰が一回ずつ交代っつった? 俺が十回やったらデクが一回だろうが」
「それ僕すっごい負担多くない!?」

初耳なんだけど!? と目を剥く出久は、ええいままよと勝己の太腿で勃起したペニスを挟み込んだ。眼下で喚く声が聞こえるがこの際無視である。わざと勝己にも擦りつけるように腰を動かすと、罵声は次第に色めいたものに変わっていった。
もはやどちらのものかは知る由もないが、とめどなく溢れる先走りが勝己の腰骨に沿うフリルを湿らせていく様子を見て出久は興奮していた。同じように勝己もまた、自分のやった下着を穿いてこういうことがしたいとやってきた出久をかわいく思っていたし、だらしなく涎を垂らして感じ入っている顔を見て少なからず興奮しているのであった。

「かっちゃん、ね、キスしたい」してもいい? と尋ねた出久から涎が垂れる。口元付近に落ちたそれを舌で舐め取りながら「聞くなボケ」と勝己は頭を引き寄せた。




20160102