やぶれかぶれ









両手で顔を挟まれるところから始まって、唇、目尻、耳ときて、それから喉に下りる。少し飛びでたまろい骨を舐めて、噛んで、またすぐ下の鎖骨の窪みに吸い付く。あまり強く吸うものだから恥ずかしい音が立って沢村は耳を塞ぎたくなった。左右の鎖骨を唇でなぞるように触れた後はそのまま胸に下りて、舐めて噛んで、また少し下に下がって舐めて噛んで、臍なんていじくって何が楽しいのか不思議で仕方ないがこの男は大層面白いものがこの小さな穴に隠れていると思っているのか舌をねじ込んでは皮に噛みついた。なんもねぇよゴマしかみつかんねぇよとよほど言ってやりたかったが、なるほど皮膚の弱い所は敏感なのだと思い知る。腹筋を震わせて引き攣ったような声をあげる沢村を腹から見上げて、小さく喉で笑った御幸はいよいよ下生えに触れた。立ち上がりかけていたものを握ってこすって舐めて噛んで、そんなことをされながら茫洋と二段ベッドの底を見上げていた沢村は不意に昔の事を思い出した。長野の、友人の家で猫を飼っていて、遊びに行くたびにかまっていたのだがたまに友人は猫に向かってあー! と困った声を出すことがあった。(また噛んでる!)(こいついっつも噛むんだよ)そう言いながら猫を持ち上げていたのだが、猫も猫で譲れない何かがあるのか噛みついて離「なに考えてんの?」

なぁ沢村。名前を呼ばれて、はっとした時にはもう目の前に御幸の顔が迫っていた。「みゆき」、センパイ、と言い終わる前に顔がぶつかり衝撃が響く。わざと歯を当てやがった。離れるかと思ったのにそのまま口の中を好きなようにされて、ぶつけられた歯は痛いし、ベロも噛まれるし、なんなんだこの野郎という気持ちを込めて沢村は目を閉じずに睨んでいた。御幸も沢村を見ている。睨み合いながらキスをしてお互いの目の中に自分を見ているうちに段々興奮してきて、もう歯が痛いとかそんなことはどうでもよくなってしまった。いい加減苦しくなってようやく顔を離した御幸は、肩で息をする沢村を見下ろした。「なに考えてたんだよ」答えろよ、答えなきゃヒドイことするぞ、と冗談なのか本気なのか図りかねる声色で脅しながら、涙の滲む沢村の目尻を親指でなぞる。「教えて」「……ねこ」 ねこが、と沢村が呟く。「ねこが……なんか、噛んでたの、思いだして」 一生懸命話しながら、しかし結局最後まで何かを思い出せなかったので、「なんか、噛んでたんだけど……わかんない」というぼんやりした答えをする他なかった。最後まで黙って聞いていた御幸は、呆れたように口元を上げてもう一度顔を近づけてきた。今度は優しく、歯もぶつけずにやわく唇を噛むと、耳元に口を寄せる。

「じゃあヒドイことしよっか」

ちゃんと答えられなかったもんな。耳の穴から脳に直接言い聞かせるように囁いた御幸に耳たぶを噛まれて、それからのことを沢村はよく覚えていない。