U.F.O.

どこの高校に行くのかという話は割と早い段階で出てくるもので、俺はどこに行きたい、僕はそこに行きたい、と皆好き勝手に強豪校の名前を挙げ連ねては一年生ながらそこで一軍として戦うのだと夢を語る。まだ小学校を卒業したての十二歳の俺はそういうことを考えていなかったけど、中学も二年目に突入していた彼は先輩達と楽しそうに夢物語を話していた。
彼の語る学校はいつもバラバラだった。大体そんなものだ、皆。それでも二年生のうちは気楽に考えていたけれど、中学も三年目になってくると本命を決めた人達が増えて、俺はどこに行く、僕はそこに行く、と確固たる未来を想像しながら話すようになった。俺はその度に彼の応えに耳をそばだてていたけど、彼はここもいいね、あそこもいいねと相槌を打つばかりだった。夏が終わり、秋になり、とうとう冬になっても彼がどこへ行くのか俺は知らないままだった。

近くはないけれど家の方向が同じなのでいつも一緒に帰っていた。夏はアイスを買って、冬は肉まんを買って食べながら歩く道すがら色んな話をした。その日は特に寒くて、あんまり寒いからおでんを食べようと言い出した彼に頷いて二人で好きな具を選んだ。お腹が空いていたのでピザまんも買った。べちょべちょになっていた皮に文句を言いながら少し先にある公園まで歩いた。小さい公園なので滑り台と鉄棒とベンチくらいしかないのだが、狭い空間にぎゅうぎゅう詰まっている感じが結構好きだった。
ベンチに座って、間におでんを置いた。思っていたよりも熱くて口に入れたはんぺんをうっかり出しかけた。熱いですねと言うと、ハフハフいいながら大根を食べていた彼が頷いた。さっきより少し小さく切った大根を食べる彼は尋ねた。
「先輩はどこに行くんですか」
それでもやっぱり熱かったみたいで、はふ、と口から息を吐いた。
「稲実に」
行くよ、と言いながら大根を飲み込んで彼は笑った。柔らかい目尻を下げて優しい顔をして。彼はそういう笑い方をする人だった。
「球を受けたい人がいるんだ。無理かもしれないけど」
そう続けた彼は、それきり黙ってしまった。たまごが上手く掴めないのだ。真剣な眼差しでたまごに挑む横顔を見ながらはんぺんを食べた。餅巾着に箸を伸ばす頃には掴むことを諦めて割り箸を突き刺そうとしていたが、やはり上手くいかないようで、結局俺が餅巾着を食べ終わるまで戦いは続いていた。
「俺、割りましょうか」
「うん……」
散々接触を拒んできた剥き身のそれに箸を伸ばすといともたやすく掴めた。ぐにゃりと弾力を持って白身がへこみ、そのまま力を込めると弾けるように二つに割れた。どうぞ、と顔を上げるとあっさり済んだ様子になんともいえない顔をしていたので思わず笑った。
「俺なんて掴めもしなかったのに……」
「そういうときもありますって」
「そうかな?」
「そうですよ」
彼は笑って、だといいけど、とたまごを掴んで食べた。すっかりぬるくなっていたのでそのまま噛み砕き、口を動かしながら残りの半分を箸で指して俺を見た。首を傾げると彼は半分のたまごを持ち上げた。顔の前で止まったそれにようやく言いたいことを理解した俺は素直に口を開いてありがたく頂戴した。

白身と黄身が口の中から消えた後、空の容器をゴミ箱に捨てて公園を出た。辺りは真っ暗だった。
「でもちょっと驚いたな」
「なにがです?」
「さっきの。どこの学校に行くかって晋二には初めて聞かれたからさ」
人気のない道を、ぽつぽつ立っている街灯を頼りに歩いているときのことだった。
「そういうの興味ないと思ったよ」
ちょうどそこで別れ道についた。またなと笑って去っていく彼は思っていたよりも鈍い人で、案外酷い人なんだなと俺はその時気づいた。






冬が終わったら何になる。春になる。その少し前に彼に会いに行った。寮に入るので、入学式の前に色々と準備があるから今日がゆっくり話せる最後の日だというのに、俺はどうでもよい話ばかりをしながら彼の隣に座っている。
まだ春休みだから昼下がりの公園は賑やかだった。遊具がロクになくても駆け回るだけで楽しいと、小学生がけらけら笑いながら遊んでいる。俺も二年前はあんなに小さかったのかなと考える口で昨日見た歌番組の話をしていた。彼の好きなアイドルが出ていたから。
でも本当はどうでもよくて、違うんです。ごめんなさい。俺が聞きたかったのはまゆゆの一番かわいい顔じゃないんです。どうでもいいんですそれは、どうでもよくて、「多田野先輩」一番かわいく見える角度について話していた彼が俺を見る。
「先輩、稲実に行くんですね」
明日の朝そこへ向かう人に今更バカみたいなことを言った。だのに彼は微笑んだ。うん、と頷いて「頑張ってくる」と言った。

(大丈夫なんですか、先輩、ひとりで頑張れるんですか。おでんのたまごも割れないのに。)

俺は次の言葉を待っていたけど彼はそれきり何も言わなかった。よく晴れた昼下がりに男二人で馬鹿みたいに見つめ合っていた。桜の花でも舞っていればロマンチックもあっただろうに、この公園には滑り台と鉄棒とベンチしかないのだ。








20140930 ♪銀河
お前も来いとか一緒に頑張ろうとか言ってくれないので