雅さん雅さぁーーーん入るよぉーーと言いながら『雅さぁーー』の辺りですでに原田のベッドに腰を下ろした成宮は、テレビの前にちょこんとあぐらをかいている背中を見た。大きな背中の向こうでは群雄割拠の雄叫びが響き渡り、蹄の駆ける音や人を切り伏せるSEが成宮の耳に届く。壁にかかった時計を見て、あと半刻は相手をしてもらえないことを知った成宮は一旦自分の部屋に戻ろうかしらと思ったけれど、ごわついた布団が存外心地好かったのでやめた。原田はちらともこちらを見ない。彼は今戦国時代に飛んでいる。
しばらく音だけの大河ドラマを聴いていた成宮は、後ろについた腕が疲れてきたので体の力を抜いた。倒れ込んだ背中を受けて、ごわついた布団からぽふん、と気の抜けた音が立つ。またしばらくそうして仰向けになっていた成宮だったが、腰が疲れたので横向きになった。芋虫のようにもぞもぞ布団の上を回り、頭上の枕を引き寄せて抱えると、良い塩梅に落ち着いたところで動きを止めた。成宮が緩慢にベッドを荒らしている間も原田の意識はテレビの向こう側にある。あんなに大きく頼もしい背中が箱のように小さいテレビの前ではちんまりと丸くなる、その姿見たさに成宮はわざわざ構ってもらえない時間に部屋を訪れるのだった。自分より一回りほど大きな体躯がなんともかわいらしいものに思えてならない。原田の背中をぼんやりと眺めながら、雅さん髪伸びたな、と成宮は思い、少し毛の伸びた襟足をわしゃわしゃする想像にひとり楽しくなった。
次回予告まできっちり観終えた原田は、振り返り、自分のベッドを占領している白毛を見て小さく息を吐いた。白毛は枕によだれを垂らして安眠を貪っている。「鳴。起きろ」なんの夢を見ているのか、原田の問いかけに成宮はエヘヘと楽しそうな寝言をあげた。起きろと声をかけはしたがもちろんこの程度で起きるとは原田も思っていない。形式的なものである。どうせ一時間はテコでも動かないのだから、終わってからくればいいのにと今でも思うし、何度もそう言ったが成宮は聞き入れない。聞き入れないからにはコイツなりに何か考えがあるのだろうと原田は思っている。毎回寝具によだれを垂らす男の考えなどロクなものではないと思うけれど。
今度こそ成宮を起こすために原田は手を伸ばした。軽く頬を叩いてやろうと伸ばした手が触れる前に成宮の口が緩む。ふふ、と吐息だか寝言だか分からないものが唇からこぼれた瞬間の顔を原田は見てしまった。よだれの垂れた不細工な寝顔は、心配事などなにもないのだとただ安らかに眠りについていた。
目を覚ました成宮は、ベッド脇で座り込む原田に「あれ」と声を漏らした。「雅さんどしたの」どうしたもなにもここは原田のベッドだが、成宮は自分の部屋に原田が訪ねてきたように振る舞った。そんな成宮を窘めるでもなく見つめる原田は、神妙な顔で「鳴」と呟く。
「なにさ」
「お前、俺がお前のこと好きだっつったらどうする」
地を這うがごとく低い、ほとんど呪われたような声でそう言った原田に、成宮は怠惰に尻を掻きながら「言うの遅いよ」と笑った。
20141230 ♪祈れ呪うな
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