彼のことを考えるとなんだか胸の辺りが苦しくなる。これもファーストの気持ちなんだろうか。カヲルは考えながら寝返りを打った。碇シンジ。碇ゲンドウの息子。三番目の少年。運命を仕組まれた子ども。僕と同じ。でも同じじゃない。だって彼はリリンだから。
リリンは不思議な生き物だと常々思っていたけれど、実際に触れて益々そう思っている。彼に近づくと彼は驚いた表情をする。離れろよ、近いよ、とカヲルを遠ざける。そのくせファーストがいなくなったらこうしてカヲルの部屋に来て、君の傍なら心が痛まないからとのたまって居座っている。
ベッドを半分使ってもいいよと言ったのは冗談半分だった。ちょっと近づいただけですぐに離れようとする彼の事だ、きっと同じベッドで眠るなんてとんでもないと言い出すのかと思いきや、夜になったらもそもそとベッドに上がりタオルケットをかぶってしまった。ぽすんと枕に頭を乗せて、すぐ後ろにカヲルがいる状況で無防備にも眠ってしまったのだ。へえ、隣で眠るのはいいんだ。ひとつ覚えながらも、やはりその心がカヲルにはよくわからなかった。シャワーを浴びながら傍に寄るのはダメ。隣で肩を抱くのもダメ。好きになるのもダメだけど、同じベッドで眠るのは良い。
彼は、男は男を好きにならないのだと言っていた。それもカヲルにとっては不可解なことだ。男だとか女だとか、それは重要なのだろうか。同じリリンだろうに。違いなんて生殖器と繁殖時の役割くらいのものだとカヲルは思っているのだが、どうやらリリンたちにとっては大きく違うらしいということも段々解ってきた。理解はしたが、どうしてそう考えるのかについてはまだわからない。

そっと後ろを見やる。薄い背中が小さく上下している。すっかり眠っているらしい。カヲルはベッドを揺らさないようにそうっと体を起こしシンジを覗き込んだ。相も変わらず丸まって、まるで胎児のようだった。
何かから自身を守るように丸まって眠る少年は、先日過呼吸を引き起こした。袋を探すのが面倒で思いついた応急処置を実践してみたのだが、それ以降彼は益々カヲルへの警戒心を強めてしまった。なんだいキスくらい。ただ唇を合わせただけじゃないかとカヲルは思っているのだが、やはりそれもリリンにとっては違うらしい。
彼らにとってキスとは、好意を持つ相手とするものだという。ならばそれを嫌がった彼は僕のことが嫌いなのだろう。過呼吸の所為もあるだろうが、顔を真っ赤にして、なにするんだと声を荒げていた。さすがのカヲルもそんなに嫌なのかよと少し不機嫌になった。
碇シンジは何故渚カヲルを嫌うのか。たぶん僕が男だからだな、とカヲルは思っている。たぶん僕が女だったら、シャワーを浴びながら近づくのも、隣で肩を抱くのも、キスをするのも良いんじゃないだろうか。こうして隣で眠っていても、背を向けるのではなく、こちらを向いて眠るのではないだろうか。
そこまで考えて、カヲルはますますわからなくなった。たかが性別が違うだけでそんなに変わるものかしら。男でも女でも、肩を抱いてキスをするのは渚カヲル自身なのに。
額に掛かる前髪を退けてやると幼い寝顔が露わになる。カヲルは同じ年頃の少年を彼の他みたことがないのだが、シンジは少女めいた顔立ちをしていると思う。見た所あの厳つい碇ゲンドウの血は現れていないので、きっと母親に似ているのだろう。綺麗な顔立ちをしている。カヲルの前ではいつも不機嫌そうな顔ばかりしているが、笑えば中々にかわいらしいのではないか。見てみたいなぁ、とカヲルは思ったが、無理だろうなとも思った。だって彼は僕が嫌いだもの。
まったく、なんでそんなに僕を嫌がるの。こんなに好きなのに。リリンの気持ちを理解し、好きになってみようと頑張ってる僕に、少しはご褒美をくれたっていいじゃないか。唇を尖らせたカヲルは、ふと思いついたように頭を屈めるとシンジの頬にキスをした。離れ際にさらりと前髪を撫でるとむずがるように唸る。まるで赤ん坊のようなその仕草が何ともかわいらしく、カヲルは満足して眠りについた。




20120103 くるしいもくるおしいも