ディエゴが借りてきた映画はチープな恋愛物だった。本当にありがちな話で、十分も見ていればこの後主人公がどうなってヒロインと結ばれて最終的にどういうことになるのかを察することができるような、そんな物だったので、二十分我慢したジョニィはとうとう耐え切れず隣のディエゴに「なにこれ」と文句を言った。
「全然面白くないんだけど」
「だろうな。俺だって面白くない」
「何だって?」
凭れかかっていた体を起こしてディエゴを見ると「そのドーナツ一口くれ」とジョニィの手から食べかけのドーナツを奪っていき、あんぐりと大きく口を開けて全部平らげてしまった。「ちょっと!ひとくちって言っただろ!」「ひとくちだろ」「そうじゃなくて!まったく……あ、じゃあ君のドーナツくれよ」「やだね」そう言ってジョニィが手を伸ばすより先にテーブルの上のドーナツを取って、ジョニィの手が届かないように持ち上げたディエゴは意地悪く笑った。ちくしょうめ、と口を尖らせたジョニィは映画の続きを観ようとテレビに顔を戻して、そこでやっと振り出しに戻った。「そうだ、映画の話だよ!」
なんだってこんな面白くもなんともない映画をわざわざ借りてきたのかと問いただすと、自分の分のドーナツを食べながら「これ、」とディエゴがテレビを差す。その先では、主人公とヒロインがパーティーでワルツを踊っていた。これが観たかったんだというディエゴの声を聞きながら幸せそうな笑顔でくるくると回る二人を眺めたジョニィは、ディエゴの言わんとすることがわかった。「君、本当に性格悪いね」苦虫を噛み潰したような顔で言ってもディエゴには何の意味もない。誹謗中傷には慣れているのだ。最もそれはジョニィも同じだったので、言い返しはしたがこの程度の嫌がらせは屁でもなかった。交通事故にあって足が動かないのは今更だし確かにワルツは踊れない。事故にあった当初はものすごく荒れて些細な言葉にも罵声で返したが、三年目ともなればなんともなかった。
それよりもジョニィは、どうしてディエゴが今更こんな嫌がらせをしたのか気になった。足が動く頃からディエゴとは喧嘩するような仲だったし、こうなってからもそれは変わらないが、思い返せば足についてディエゴが何か言ってきたりしてきたことはないんじゃないかとジョニィは思った。その代わり励ましの言葉もなかったが。「ねぇ、なんで今更こんなみみっちいことするの」先刻と同じようにディエゴの肩に凭れながらそう尋ねると、一度でいいから足についての嫌がらせをしてみたかったのだと笑いながら言ったので、ジョニィは思い切りディエゴの髪を引っ張った。
(20100819)
|